件がやゝ解決できたと思います。小児が中毒で苦しみ出してとうとう死んだとします。それを見た父親は先に震災で三児と家を失い、今又最後の一児を失ったので、多分逆上したのでしょう。突如発狂して母親を背後《うしろ》から刺し殺し、畳|襖《ふすま》の嫌いなく切り廻って暴れた。処へ丁度問題の岩見が何の為にか忍び込んでいたので之に斬りつけたのでしょう。そこで格闘となり、遂に岩見のため刺し殺されたのではないかと思います。放火が岩見でない事は、彼には恐らく薬品上の知識はないでしょうし、又その際、別にそんな廻りくどい方法をとらなくてもよいでしょう」
「すると放火の犯人は?」
「恐らくこの家の焼ける事を欲する者でしょう。可成り保険もあったそうですから」
「失敬な事を云うな!」今まで黙って聞いて居た福島が怒号し出した。「何の証拠もないのに、全《まる》で保険金目的で放火したような事を云うのは怪しからん。第一当夜僕は家に居ないじゃないか」
「家に居て放火するなら、塩剥《えんぼつ》にも及びますまい」
「未だそんな事をぬかすか。検事さんの前でも只《たゞ》は置かぬぞ」
 検事もこの青年記者の落着き払った態度に敬意を表したも
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