事のないと云う階級の、習慣を破って兎に角一区画内の主人同志が知り合いになったと云う事と、それに各方面から避難して来ている人々も加わって来るので、いろ/\の職業に従事している人々から、いろ/\の知識が得られると云う事であろう、――然しこの知識はあまり正確なものではないので後には「あゝ夜警話か」と云ったような程度で片付けられるようになったが。
 青木は年輩は私より少し上かと思われる人だが、熱心な夜警団の支持者で、兼ねて軍備拡張論者である。松本は若い丈《だ》けに夜警団廃止の急先鋒、軍備縮小論者と云うのであるから、耐《たま》らない。三十分置きに拍子木を叩いて廻る合間にピュウ/\と吹き荒《すさ》んでいる嵐にも負けないような勢《いきおい》で議論を闘わすのであった。
「いや御尤もじゃが」青木大佐は云った。「兎に角あの震災の最中にじゃ、竹槍や抜刀を持った自警団の百人は、五人の武装した兵隊に如《し》かなかったのじゃ」
「それだから軍隊が必要だとは云えますまい」新聞記者は云った。「つまり今迄の陸軍はあまりに精兵主義で、軍隊だけが訓練があればよいと思っていたのです。我々民衆は余りに訓練がなかった。殊に山ノ手
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