の落胆は気の毒な程でした。私の方では家族一同を一旦郷里の方へ避難いたさせましたので、――尤も私だけ取引上の事でそう行き切りと云う訳に参りませんから、こちらに残り時々郷里の方へ参りました。――丁度幸いこの夫婦を留守番に入れたのです。私は昨日は夕刻から郷里の方へ出掛けまして、今朝程又出て来たのです」
「昨日二人は、別に変った様子はありませんでしたか?」
「別に変った様子はありませんでした」
「近頃坂田の所へ客があったような事はなかったですか?」
「ありません」
「あなたは何か人から恨みを受けている様な事はありませんか?」
「恨《うらみ》を受けているような事はないと存じます」こう云いながら、彼は側に立っていた青木を見つけて、「いや実は近頃この町内の方からは可成り憎まれて居ります、それは私が町内の夜警に出ないと云う事からで、そこに御出でになる青木さんなどは、最も御立腹で私の宅などは焼き払うがよいとまで申されましたそうです」
検事はチラと青木の方を向いた。
「怪《け》しからぬ」青木はもう真赤になって口|籠《ごも》りながら、「わ、我輩が放火《つけび》でもしたと云われるのか」
「いやそう云う訳じゃ
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