、宝石はたしかにその家のどこかに隠されていると云う事を知ったのです。それからあとは容易です。長方形の片隅の矢印をした符号は、石段の角を示します。S、S、Eは磁石の南々東《サウスサウスイースト》です。31[#「31」は縦中横]は無論三十一尺、逆の丁字形は直角です。W―15は西《ウェスト》へ十五尺です。即ち石段の角から南々東へ三十一尺の地点から、直角に西の方へ十五尺と云う事です。岩見が宝石を隠した時分には、その土地は空地で石段だけは既に出来ていましたが、一面の草原であった事は、あなたの方がよく御存じです。岩見は万引事件で禁固の刑を受け、宝石を取り出す時機を失している中に、その土地に福島の家が建ちました。そこで彼は出獄すると福島の宅へ目をつけ、機会を待っていましたが、遂に留守番にモルヒネ入《いり》の菓子を送り、麻酔させた上で、ゆっくり宝石を取り出そうと企《たくら》んだのです。そして暴風雨《あらし》を幸い、忍び込んだのです。ところが相手はモルヒネで寝ているどころか、あべこべに斬りつけられる様な目に逢ったのです。床板の上っていたのはそう云うわけで宝石を探そうとしたのです。
 所が宝石は如何《どう》したのでしょう。
 それは私がたしかに頂戴しました[#「それは私がたしかに頂戴しました」に傍点]。もう既に御気付きと存じますが[#「もう既に御気付きと存じますが」に傍点]、私が××ビルディング白昼強盗の本人です。
 お驚きにならないように、尚一つには私の手腕を証拠立てるためと、一つには私の永久の記念のために、あなたの内ポケットに例の琥珀のパイプを入れて置きました。怪しい品ではありません、どうぞ安心してお使い下さい。
[#ここで字下げ終わり]
[#地付き](〈新青年〉大正十三年六月発表)



底本:「日本探偵小説全集1 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎集」創元推理文庫、東京創元社
   1984(昭和59)年12月21日初版
   1996(平成8)年8月2日8版
初出:「新青年」
   1924(大正13)年6月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※「軍備縮小」と「軍備縮少」の混在は、底本通りです。
入力:網迫、土屋隆
校正:小林繁雄
2005年10月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書
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