んが行方不明になったそうだね」
「えゝ、あの野郎め、未だやっと十六になった許《ばか》りの姪を手籠めにしやがって、挙句の果にどっかへ誘《おび》き出して殺して終《しま》いやがったんでさあ」

 定次郎の放言には石子刑事も驚いた。
「オイ/\、声が大きいぜ、滅多な事を云うなよ」
「へえ、すみません。実はわっちの方にも之と云う手証《てしょう》がねえもんですから、仰せの通り大きな声は出せねえのです。少しでも証拠がありゃ、今まで黙っちゃいないのです。
 一体《いってえ》兄貴が意気地がねえもんだから、現在の娘をあんな眼に遭わされて、運命だ、いや荒立てゝは身の恥だなんて、中学校の先生なんてものはみんなあんなもんですかねえ。だから、あっしゃ見ちゃいられねえのです。姪を元の身体《からだ》にして返せとまあ、旦那、談判に出かけたもんです。支倉の奴は木で鼻を縛《くゝ》ったような挨拶をしやがったが、おかみさんが分った方《ひと》でねえ、病気の方は医者にかけて治療させると云う事になって姪の奴は一先ず世話した人の宅へ引取って、それから病院に通わせると云う事になったのです」
「それから」
「それから、その詫《わび》の印《
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