最近に買収せられていた。無論支倉の仕業に相違ない、余りの彼の機敏さに石子刑事は茫然とした。
 けれども彼はこんな事では屈しなかった。
 彼の頭脳《あたま》には半ば引裂かれた一葉の写真が記憶に残っていた。それは支倉が四、五人の宣教師仲間と写したものらしく、無論彼自身の姿は引裂いてあったが、右の端に白髪の外国人が端然と腰をかけていた。外人宣教師は数も少いし、支倉の派に属するものとすれば一層範囲は狭められるし、殊に白髪の老人と云う特徴があるから、どうにか尋ね出せそうに思われた。
 彼は二、三の教会を尋ね廻った。そうしてそれがどうやら府下中野の中野教会のウイリヤムソンと云う牧師らしい事が分った。
 石子刑事はその足ですぐに中野に向った。短い冬の日はもう暮れかゝっていた。
 中野教会でウイリヤムソンの所を聞いて狭苦しい横丁を幾曲りかしながら、彼の宅を訪ねると幸い彼は在宅だった。遭って見ると確に写真の老人に相違なかった。
 対手が外国人だし、宣教師と云う職にある人だし、聞き届けて呉れるかどうか危ぶみながら支倉の逃亡した話をして、一緒に写している写真を貸して貰いたいと切出すと、案じるより生《うむ》が
前へ 次へ
全430ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング