の一つとするから、どの署長でも犯罪人を踏台にして出世したと云わば云えるので、こんな事で非難されては警察署長のなり手がないであろう。要は取調べ方が辛辣だとか、無辜を強いたとか、卑怯な方法を用いたとか云う点があれば攻撃せられるのであろうが、支倉事件にはそんな点があるであろうか。
 事件が事件だけに、犯人が犯人だけに、多少訊問方法に遺憾があったかも知れない。然し、犯人自白の場面の公明正大なるを見ると、そんな疑問は飛んで終う。誰しも支倉が後に自白を根本的に覆して終うなどとは予想しない。

 大分面白くない議論めいた事が続くが、事の序《ついで》にもう少し述べさして貰おう。でないと後に起る複雑な事件に正確な判断が下せないからである。
 問題は支倉の自白が真実か虚偽かと云うのにある。尤も読者諸君の既に知られる通り、彼の自白は誠に立派なもので、誰でもあれが虚偽であるとは考えない。後に彼が自白を覆えしたからこそ問題になったのであって、それだからと云って直ぐに神楽坂署で拷問にかけたとか、ありもしない罪を着せたとかいうのは当らないと思う。支倉自身は後にはいろ/\と酷い目に遭わせられた事を云い立てたけれども、
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