なった。
 翌朝も快い春めいた空だった。人々は陽気に笑いさゞめきながら、郊外に残《のこ》んの梅花や、未だ蕾の堅い桜などを訪ねるのだった。忙しそうに歩き廻る商店街の人達さえ、どことなくゆったりとした気分に充ちていた。
 独房に閉じ込められた支倉喜平には、然し春の訪れはなかった。彼を自白せしめようと只管《ひたすら》努力している警吏達にも、春を味わうような余裕はなかった。真四角な灰色の警察署の建築の中はあわただしいものではある。
 この朝は神楽坂署の内部は、何となく憂色に閉ざされていた。
 司法主任の大島警部補が急に病が革《あらた》まったのである。
 彼が病を押して身を挺して支倉の訊問に当っていた事は前に述べたが、昨日は殊に気分の勝れなかったのを無理に出署したのだが、出署して見れば支倉を取調べずには居られない。で、刑事達の留めるのも聞かず訊問を始めたが、忽ち興奮して終って持病の心臓をひどく痛めて終った。帰宅するとそのまゝバッタリ斃れて終ったのであった。
「大島主任はどうもいけないらしいです」
 真蒼な顔をして署長室に這入って来た石子は、署長の顔を見つめながら云った。
「えっ」
 物に動じない
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