った。罪人を救い、曲ったものを正すべき宗教家として、人を遇する上に感情を交えるのは慎むべき事であるが、神でない以上愛憎を感じるのは止むを得ぬ。尤も神戸氏は決して支倉を憎んでいるのではない。只何となく少しばかり気に入らぬと云うだけなのだ。彼の方から師事して教えを求めに来るのを排斥する訳には行かぬ。
 彼はバタリと机の上の書物を閉じた。
「こちらへお通しなさい」
 支倉喜平は一癖ある面魂《つらだましい》に一抹の不安を漂わせながら、書斎に這入って来た。
「御無沙汰いたしました」
 彼は平伏した。
「こちらこそ、お変りなくて結構です。まあお敷なさい」
 牧師は彼に蒲団をすゝめた。
「有難うございます」
 支倉は蒲団を敷こうともせず、モジ/\していた。
 暮色が忍びやかに部屋の中に這入って来た。
 あたりが模糊として、時計の音が思い出したように響いた。
 神戸氏はつと立上って頭上の電燈のスイッチを捻った。さっと黄色を帯びた温かい光が流れ落ちて、畳の目を鮮かに照した。夕闇は部屋の隅の方に追いやられた。
 モジ/\していた支倉は神戸氏が静かに元の座に帰った時に、つと決心したように頭を上げたが、直ぐに
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