出そうとした事に不安を感じたと云えば感じたかも知れないが、要するに彼は念には念を入れると云う用心から、もう一度浅田に手紙を送ったのだ。もし手紙が浅田の偽筆だったり、又は強制されて書いたものだったりしたら、この二度目の手紙で真相が分るかも知れないのだ。それにしても両国の坂本公園を態《わざ》と読み違えた風をして坂本と云う人は知らないなどと、空々しい事を書いて来るとは何と奸智に長けた奴だろう。
渡辺刑事は目頭が熱くなる程憤慨した。
が、ふと気がつくと彼は愕然とした。これ程の奴だから、こう云う断りの手紙を出して置いて、そっと坂本公園の様子を見に来るかも知れない。彼自身来ないまでも誰かに頼んで公園の様子を探るかも知れない。もし彼に公園の物々しい警戒を鳥渡でも悟られたら一大事である。彼はもう二度と浅田の手紙を信用しないであろう。そうなるといつ彼が捕えられるか見当がつかぬ事になる。一時も早く公園の警戒を解かねばならぬ。渡辺刑事はいら/\した。けれども彼自身が迂闊に出かける訳に行かない。留守に又浅田がどんな手段を取るやら分らぬ。あゝ、どうしたら好いだろう。約束の十時は刻々に近づいて来る。
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