いかに努力しても、妻に対して日に日によそよそしくなるのを禁ずることが出来ませんでした。私は唯気違い馬のように、只管《ひたすら》研究に没頭するばかりです。妻には無論血液型の事については一言も申しませんでした。妻は私がよそよそしくなったのは、私の本来の性格と、研究に熱心なる為と解していたと思います。彼女は私の冷い態度に反して、益々貞淑に仕えて呉れるのです。ああ、私は妻の貞淑が証明されるまで、次の子供を設けようとさえしませんでしたのに。
 生れた子供は幸か不幸か十一の年に死にました。私はその不幸の子の為に、今こそ潸々《さんさん》と涙を注ぎます。可哀そうな子供、父の愛を少しも味わないで、淋しく死んで行った子。本当に哀れな子でした。
 私の研究は進みました。然し、それは妻の貞淑を否定する材料ばかりです。ああ、二十年の永い間、夫婦でありながら夫婦でない夫婦、夫からは冷い眼で見られ、疑られながら、貞淑を尽し通した妻、何という可哀そうな女でしょう。だが、私も何と可哀そうな夫ではありませんか。
 私達はこうして、尚十年も二十年も生きて行かなければならなかったのです、然し、天もいつまでも私達に無情ではあり
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