じだと思います。二人はごく近い所に生れ、大学を卒業し教授となるまで、全く同じ道を通って来ました。あらゆる点に競争|対手《あいて》だった事は、やがてお互の身を亡す原因になったのです。然し、之はお互いに運命づけられて来た事ですから、今更悔んでも仕方がありません。
大学を出てから私達は一人の女性を中に置いて、必死の恋を争わなければなりませんでした。その女性が私の妻であることは、御存じの事だと思います。
御承知の通り毛沼博士は非常に朗かで社交的で話上手です。私はあらゆる点で毛沼博士とは正反対です。恋を争う上に、私はどんなに不利であるか、お察し下さい。妻も一時は全く毛沼博士に眩惑されました。妻はその処女《おとめ》時代に、毛沼博士とは親しい友人のように、自由に交際していました。私は羨望と、嫉妬に身を顫わしながら、それをうち眺めているより仕方がなかったのです。が、やがて彼女は毛沼博士が必ずしも表面上に現われているような人物でないことを悟り始めました。毛沼博士は陰険な卑劣な頗る利己的な人間だったのです。妻は漸く彼から離れようとしました。そして或日危く重大な侮辱を受けそうになり、辛うじてそれから逃れ
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