、尚一週間ばかり苦しみ続けた。そうして、突如として笠神夫妻の自殺という、譬《たと》えようのない恐ろしい事実にぶつかって終ったのだ!
私はこの報せを聞いた時には全く一時失神状態になって終った。
笠神博士の遺書は公開のもの一通と、別に私に当てたものが一通あった。公開のものには、故あって夫妻で自殺するということと、遺産はすべて私に譲り、その代りに葬式其他死後の事は、一切私に依頼するということが書いてあった。
私に宛てたものは、一年間は絶対に公表してはならぬものであり、この話の冒頭に述べた通り、私は之を読んだ時に、直ぐさま博士夫妻の後を追うて、自殺しようと思ったのだった。然し、辛うじてそれを思い止り、博士夫妻の亡き跡を回向《えこう》しながら、苦しい一年間を送った。今や私はそれを発表しようとしている。この遺書が発表されたら、どんな影響を社会に与えるだろうか。私は再び新聞記者の群に取巻かれる事だろう。又私の両親はどう考えるだろう。それが私は恐ろしい。私は次に博士の遺書を掲げて、この物語を終ると共に、そっと誰にも知らさないで、どこかへ旅立つつもりだ。然し、私は博士の教えを堅く守って、決して、自
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