蹴飛ばして、ゴム管を外《はず》し、それを知らないで、そのまま寝台に潜り込んで終うという事は起り得ないことはあるまい。
然し、一定時間睡眠をとれば、それが仮令《たとい》三十分|乃至《ないし》一時間の短時間であっても、余ほど知覚神経の麻痺は回復するものだ。むしろ知覚神経の麻痺の回復によって、眼が覚めるという方が本当かも知れない。毛沼博士が一旦寝台に横《よこたわ》ってから、暫くして眼を覚ましたものとすると、もう余ほど酔が覚めているだろうから、ガス管を蹴飛ばしたり、ガスの漏洩に気がつかないという事はない筈だ。それに博士はそれほど泥酔はしておられなかった。現に洋服を脱いで寝衣に着かえるだけの気力があったのだし、私に「帰って呉れ給え」とちゃんといわれたのだから、人事不省とまでは行っていない。第一、それほどの泥酔だったら、朝までグッスリ寝込んで、眼は覚めない筈である。遅くとも一時までに一回起きて、寝室の扉に鍵を下されたということが、酔いが比較的浅かった事を示しているではないか。
考えても、考えても、考え切れぬ事である。循環小数のように、結局は元の振出しに戻って来るのだ。
ああ、私は早くこんな問
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