点数や、席次や、社会的地位を争うのだから、そこに不純な名誉心や嫉妬心や猜疑心が介在して来るから、本人達に取っては、非常に苦しいものだったに違いないと思う。
噂をして誤りなく、又私の推察が正しければ、この二人は、場合によっては名誉も権勢も生命も弊履《へいり》のように棄てようという恋を争ったというのだから、実に悲惨である。三角関係にどんな経緯《いきさつ》があったか知らないが、兎に角、笠神博士が恋の勝利者となり、毛沼博士が惨敗者となって、遂に一生を独身に送ることになったのだ。私はM高出身ではあるけれども、東京で生れ東京で育った人間なので、帝大に這入って初めて両博士に接し、そういう噂話を耳にしたのだが、爾来《じらい》三年間に、親しく両先生の教えを受け、殊《こと》に笠神博士には一層近づいて、家族へも出入したので、今いった噂話が一片の噂でなく、事実に近いものであることは、十分推察せられていたのだった。
然し、両先生の口や、笠神博士夫人の口から直接聞き出した事ではなし、何の証拠もない事であるから、私は署長の質問に対して知らないと答えたのである。
署長は暫く私の顔を見つめていたが、その事について
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