るのは何故か、という事なんでしょう」
「それと前の言葉とどういう関係があるんですか」
「分りません」
「ふん」
署長は仕方がないという風にうなずいた。
私は訊いた。
「一体なんです。之は」
「毛沼博士の寝室で発見されたんです」
「へえ」
意外だったが、意外というだけで、それ以上の考えは出なかった。それよりも、今まで肝腎の事を少しも分らせないで、散々尋問された事に気がついたのだった。私は最早猶予が出来なかった。
「毛沼博士はどうして死んだんですか」
「瓦斯の中毒ですよ。ストーブ管がどうしてか外れたんですね。部屋中に瓦斯が充満していてね、今朝八時頃に漸く発見されたのです」
「過失ですか。博士の」
「まあ、そうでしょうね。部屋の扉が内側から鍵がかかっていましたからね」
「じゃ、博士が管を蹴飛ばしでもしたんでしょうか。私が出た時には、確かについていましたから」
「そうです。博士が少くても一度起きたという事は確かですから。鍵を掛ける時にですね」
「八時までも気がつかなかったのはどういうものでしょう」
「休日ですからね。それに前夜遅かったし、グッスリ寝ていたんでしょう」
説明を聞くと、十分あり得ることだ。現に知名の士で、ストーブの瓦斯|漏洩《もれ》から、死んだ人も一二ある。だが、私には毛沼博士の死が、どことなく不合理な点があるような気がするのだった。
「じゃ、過失と定ったのですか」
「ええ」
署長はジロリと私の顔を眺めて、
「大体決定しています。然し、相当知名の方ですから、念を入れなくてはね。それで、態々《わざわざ》来て貰ったのですが、御足労|序《ついで》に一度現場へ来て呉れませんか。現場についてお訊きしたい事もあるし、それに君は法医の方が委しいから、何か有益な忠告がして貰えるかも知れない」
「忠告なんて出来る気遣いはありませんけれども、喜んでお伴しますよ」
私達は直ぐ自動車を駆って、毛沼博士邸へ行った。もう十時を少し過ぎていて、曇り勝な空から薄日が射していたが、外は依然として寒く、街路に撒《ま》かれた水は、未だカンカンに凍っていた。邸前に見張をしていた制服巡査は寒そうに肩をすぼめていたが、署長を見ると、急に直立して、恭々《うやうや》しく敬礼した。
寝室は死骸もそのまま、少しも手がつけてないで保たれていた。昨夜あんなに元気だった博士は、もうすっかり血の気を失って、
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