るのだから、赤ン坊の事は隠して、私の捜索のみを、事新しく警察に願い出たり、私立探偵社を煩わしたりして、一生懸命に手を尽したのであった。
 然し十数日の捜索が無効に終ったので、父はとうとう、母親をある探偵社にやって、赤ン坊の事を依頼さした。それが偶然私の妻が頼みに行った所だった為めに、すぐ解決する事が出来た。父は私の窮状と私の妻の貞節を聞いて涙を流した。そうして私達の隠家たる裏長屋に飛び込んで来たのだった。
 それから、父も私も妻も赤ン坊も赤ン坊の母親もみんな幸福だった。赤ン坊は私達を幸福に導いて呉れた天使だった。
 妹はみんなから可愛がられている。可愛がらずに居られるものか。でも、お前は私に似ているので嫂さんを心配さしたんだよ。
[#地付き](「探偵文藝」一九二六年四月号)



底本:「幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選」光文社文庫、光文社
   2001(平成13)年2月20日初版1刷発行
初出:「探偵文藝 第2巻第4号」奎運社
   1926(大正15)年4月号
入力:川山隆
校正:土屋隆
2006年11月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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