たものであった。この二長篇が発表されて間もなく私が探偵小説を書いたという事は偶然でないような気がする。保篠龍緒君訳する所の「虎の牙」も私には大きな驚異だった。多少の影響を受けているかも知れぬ。
 探偵小説以外の小説の影響を受けている事は甚だ僅少だと思う。それは、探偵小説はコンストラクションの文学であって、他の小説と全く別箇の存在であるという私の持論の結果であるというよりも、反《かえ》ってそういう事実が、私の結論を導き出したのであるといえる。
 最近では新青年に訳載された「鼻欠け三重殺人」で、作そのものより作者のいっている言葉「解決は只《たゞ》一つあり、而《しか》してそれのみが可能なり」という一節に敬服した。この一事こそ探偵小説の精髄であり、卑しくも探偵作家を以って任ずるものの、起稿第一に考えなければならない事だと思う。
[#地付き](昭和十二年、〈新青年〉特別増刊探偵小説傑作集に発表)



底本:「日本探偵小説全集1 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎集」創元推理文庫、東京創元社
   1984(昭和59)年12月21日初版
   1996(平成8)年8月2日8版
入力:網迫、土屋隆

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