え行きぬ
  わが若き日を燃えし希望は。

夏の夜の星の如くは今もなほ
  遐《とほ》きみ空に見え隠る、今もなほ。

暗き空へと消えゆきぬ
  わが若き日の夢は希望は。

今はた此処《ここ》に打伏して
  獣の如くは、暗き思ひす。

そが暗き思ひいつの日
  晴れんとの知るよしなくて、

溺れたる夜《よる》の海より
  空の月、望むが如し。

その浪はあまりに深く
  その月はあまりに清く、

あはれわが若き日を燃えし希望の
  今ははや暗き空へと消え行きぬ。




血を吐くやうな 倦《もの》うさ、たゆけさ
今日の日も畑に陽は照り、麦に陽は照り
睡るがやうな悲しさに、み空をとほく
血を吐くやうな倦うさ、たゆけさ

空は燃え、畑はつづき
雲浮び、眩しく光り
今日の日も陽は炎《も》ゆる、地は睡る
血を吐くやうなせつなさに。

嵐のやうな心の歴史は
終焉《をは》つてしまつたもののやうに
そこから繰《たぐ》れる一つの緒《いとぐち》もないもののやうに
燃ゆる日の彼方《かなた》に睡る。

私は残る、亡骸《なきがら》として――
血を吐くやうなせつなさかなしさ。


心 象

   I
松の木に風
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