土《よみぢ》の径を昇りゆく。


わが喫煙

おまへのその、白い二本の脛《あし》が、
  夕暮、港の町の寒い夕暮、
によきによきと、ペエヴの上を歩むのだ。
  店々に灯がついて、灯がついて、
私がそれをみながら歩いてゐると、
  おまへが声をかけるのだ、
どつかにはひつて憩《やす》みませうよと。

そこで私は、橋や荷足《にたり》を見残しながら、
  レストオランに這入《はひ》るのだ――
わんわんいふ喧騒《どよもし》、むつとするスチーム、
  さても此処《ここ》は別世界。
そこで私は、時宜にも合はないおまへの陽気な顔を眺め、
  かなしく煙草を吹かすのだ、
一服、一服、吹かすのだ……


妹 よ 

夜、うつくしい魂は涕《な》いて、
  ――かの女こそ正当《あたりき》なのに――
夜、うつくしい魂は涕いて、
  もう死んだつていいよう……といふのであつた。

湿つた野原の黒い土、短い草の上を
  夜風は吹いて、 
死んだつていいよう、死んだつていいよう、と、 
  うつくしい魂は涕くのであつた。
夜、み空はたかく、吹く風はこまやかに
  ――祈るよりほか、わたくしに、すべはなかつた……


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