ノやつて来たため。
何たる夢想ぞ、狂ひし女よ、天国、愛恋、自由とや、おゝ!
おまへは雪の火に於るがごと、彼に心も打靡かせた。
おまへの見事な幻想はおまへの誓ひを責めさいなんだ。
――そして無残な無限の奴は、おまへの瞳を震駭《びつくり》させた。
※[#ローマ数字3、1−13−23]
扨《(さて)》詩人|奴《め》が云ふことに、星の光をたよりにて、
嘗ておまへの摘んだ花を、夜毎おまへは探しに来ると。
又彼は云ふ、流れの上に、長い面※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《かつぎ》に横たはり、
真《ま》ツ白白《しろしろ》のオフェリアが、大きな百合かと漂つてゐたと。
[#地付き]〔一八七〇、六月〕
[#改ページ]
首吊人等の踊り
[#ここから3字下げ]
愛嬌のある不具者《かたはもの》=絞首台氏のそのほとり、
踊るわ、踊るわ、昔の刺客等、
悪魔の家来の、痩せたる刺客等、
サラヂン幕下の骸骨たちが。
[#ここで字下げ終わり]
ビエルヂバブ閣下事には、ネクタイの中より取り出しめさるゝ
空を睨んで容子振る、幾つもの黒くて小さなからくり人形、
さてそれらの額《おでこ》の辺りを、古靴の底でポンと叩いて、
踊らしめさるゝ、踊らしめさるゝ、ノエル爺《ぢぢい》の音に合せて!
機嫌そこねた|からくり人形《パンタン》事《こと》には華車《ちやち》な腕をば絡ませ合つて、
黒い大きなオルガンのやう、昔綺麗な乙女達が
胸にあててた胸当のやう、
醜い恋のいざこざにいつまで衝突《ぶつかり》合ふのです。
ウワーツ、陽気な踊り手には腹《おなか》もない
踊り狂へばなんだろとまゝよ、大道芝居はえてして長い!
喧嘩か踊りかけぢめもつかぬ!
怒《いき》り立つたるビエルヂバブには、遮二無二《(しやにむに)》ヴィオロン掻きめさる!
おゝ頑丈なそれらの草履《サンダル》、磨減《すりへ》ることとてなき草履《サンダル》よ!……
どのパンタンも、やがて間もなく、大方肌著を脱いぢまふ。
脱がない奴とて困つちやをらぬ、悪くも思はずけろりとしてる。
頭蓋《あたま》の上には雪の奴めが、白い帽子をあてがひまする。
亀裂《ひび》の入《はい》つたこれらの頭に、烏は似合ひのよい羽飾り。
彼等の痩せたる顎の肉なら、ピクリピクリと慄へてゐます。
わけも分らぬ喧嘩騒ぎの、中をそは/\往つたり来たり、
しやちこばつたる剣客刺
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