※[#終わり二重括弧、1−2−55]

[#地から16字上げ]千八百六十九年七月二日
[#地から8字上げ]シャルルヴィル公立中学通学生
[#地から1字上げ]ランボオ・ジャン・ニコラス・アルチュル
[#改ページ]

 5 Tempus erat


その頃イエスはナザレに棲んでゐた。
成長に従つて徳も亦漸く成長した。
或る朝、村の家々の、屋根が薔薇色になり初《そ》める頃、
父ジョゼフが目覚める迄に、父の仕事を仕上げやらうと思ひ立ち、
まだ誰も、起きる者とてなかつたが、彼は寝床を抜け出した。
早くも彼は仕事に向ひ、その面容《おもざし》もほがらかに、
大きな鋸《(のこ)》を押したり引いたり、
その幼い手で、多くの板を挽いたのだつた。
遐《とほ》く、高い山の上に、やがて太陽は現れて、
その眩《まぶ》しい光は、貧相な窓に射し込んでゐた。
牛飼達は牛を牽《ひ》き、牧場の方に歩みながら、
その幼い働き手を、その朝の仕事の物音を、てんでに褒めそやしてゐた。
※[#始め二重括弧、1−2−54]あの子はなんだらう、と彼等は云つた。
綺麗にも綺麗だが、由々しい顔をしてゐるよ。力は腕から迸つてゐる。
若いのに
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