近頃位い、各先輩や審査員の家へ絵を持って廻る画学生の多い時代はかつて無いと云っていいかも知れない。
批評を受けることは必ずしも悪い事では無いが、それが単に絵の批評だけであるならいいが、或はそれ以外の点に目的がある如き頗るややこしい[#「ややこしい」に傍点]場合がかなりあるのである。
とに角一度審査員の目に触れさせて置く必要があると云う考えから、無理やりに見せにくると云う事が無いとは断言出来ない事を私達ちは感じる。その証拠に、この絵はよくないから駄目だと考えますと云った筈の絵が矢張り出品されている事も多いのである。
ひどいのになると、頼み甲斐ある先生のみを撰んで一つの絵を持ち廻っている人達ちさえあるものである。そして、悉く内意を得て置くと名誉にありつき易いと云う考案である。
それを吾々が何も知らず、うっかりと、時間を捧げて苦しい思いを噛み殺し乍ら正直に何とか批評をさせられる訳である。後に到ってその男が各人の玄関へ立ち現れたと聞くに及んで私達は淫婦にだまされたよりも尚お更らの不愉快を感じる事屡々である。それらの人種を私達は廻しをとる[#「廻しをとる」に傍点]男と呼んでいる。
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