身の力によって泳ぎ得るものが近代の技法を感得するものだろう。

     9 自然を前に、自然を背後に

 最初の一筆から最後の一筆に至るまで自然の前で行う処の絵画の技法は、印象派初期の人たちによって初められたものであると私は記憶する。
 それは、あまりに人間が安易な想像にのみよって製作していると常にそれが自然とのよき連関によって成立ってさえいればいいが、ついややもすると、単なる想像によって画家は知っているだけの同じ事を同じ色彩と同じ手段によって何回でもくり返す傾向を生じてくる。従って何千人の画家が悉《ことごと》く気不症《きぶしょう》な仕事をつづけてしまうがために、画道は衰弱しつづけ世界は眠気《ねむけ》を催すに至る。
 その時あまりの世の腐り方と眠む気に腹を立てたる者どもは、つい、この際人間のケチな想像力を離れてもとの自然の力へ帰りたい、もとの野獣となりたいと叫ぶ。ここでその反動として起ったのが最後まで自然の前で仕事をする事にあったと考える。その仕事は全く近代絵画への最初の方向転換であり、大成功だったと思う。これによって十八、九世紀に充満していた腐り切った陰鬱《いんうつ》の空気を完全に
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