、野蛮人の仕事は単純である。粗野であり、素直であり、個性的であり怪奇である。近代フランスにおいて起った種々雑多の新しい傾向は悉《ことごと》くこの野蛮人の仕事を更に繰り返したものであるといって差支えあるまい。
 即ち印象派以後、ゴーグ、セザンヌ、立体派、野獣派等正に壮大にして衰弱せる老舗の下敷から這出《はいだ》した処の勇ましき野蛮人の群であった。そして彼らの仕事の偉大なる特質は野人の特質である処のあらゆるものの単純化という事であったといっていいと思う。
 しかしながら、その近代に起った野蛮人は、何世紀かの教養と、習練と文化と生活を経て来た処の神経の、明敏にしてデリケートな処の、ヒステリックである処の、そして伝統というものを、その血液の中に確実に含んでいる処の、野蛮人であったのである。
 従ってその野人の仕事は、即ち近代絵画の性質は悉く非常な神経的のものであり、その技法は単純ではあるが頗《すこぶ》るデリケートなものであり個人的のものであり洗練され、鋭い処のものであるのは当然である。そして個人の心を、露骨に表そうとする処のものである。
 個人的といえば、あらゆる絵画は個人的な芸術作品であると
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