えいじ》の如く。
小児の傑作が長ずるに従って消滅するのも子供は絵画の組織を持たないからであるといっていい。
6 近代の心と油絵の組織
油絵というものが西洋に生れ、西洋人の要求と生活から湧《わ》き出してから古き歴史を持ち、やがて素晴らしい時代が来、大天才が輩出し、その時代時代において花を咲かせ実を結び、あらゆる人間の要求によって、あらゆる画風を生じ傑作を無数に残し、その技法は完全に研究され絵画の組織は充分に備《そなわ》り過ぎる位いに備ったのである。故に油絵技法とその組織というものは、私の考えによると、十六世紀の時代においてその全盛期であり、油絵技法の最頂点を示し、その時代と人間の生活との親密にして必然の要求による結合と、無理のない発達の極度にまで達しているものであると思う。
それ以後の西洋にあっては、伊太利《イタリア》、フランスの別なく、油絵芸術は習慣と惰性とによって、ともかくも連続はしていた訳であるが睡気《ねむけ》を催すべき性質のものとなり、芸術としての価値は下向して来た事は歴史に見てもその作品に見ても明《あきら》かである。
私は、ここに西洋絵画史を述べる暇と用意を持たないが、ともかくも、私は油絵具という材料とその形式で以てする芸術の限界においては、再び、レオナルドや、ルーベンス、レンブラント、ドラクロア、ヴェラスケス、ゴヤ等の仕事に比すべき位いの、材料と人間の生活と、技法と画家の心とが無理もなく完全に結び付き、壮大なものを生むべき時代はおそらく来まいと考えるのである。
あの重たく、厚く、深く、大きく、堅固で悠長《ゆうちょう》で壮大で、真実で、華麗で、油絵の組織の完備する点で、また油絵具の性状が完全に生かされている点において、私は油絵具のなさるべき、頂点の仕事が已《す》でにその時代において為《な》し尽されているように思えてならないのである。
極端な事をいえば油絵の技法は最早や大昔において、役に立ってしまった処の芸術形式であるといっても差支えないかも知れない処のものである。そして近代以後の人間世界の要求からは、多少とも不合理な材料であると思われ来るべき運命をさえ、持っていはしないかとひそかに私は疑うのである。
如何に面白い日本音楽であったとしても、近代日本女性の複雑な恋愛が新内《しんない》によって表現される訳には行き難いし、われわれの悲しみ
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