めることを考えるのだ、逃げ出したくなるのだ。人は案外正直なものだと思う。ことに絵描きは善人が多いのだ、いいものにはすぐ感じさせられるのだ。いかに口さきで俺は嫌だとごまかしても心のどこかに好いていれば、その心の底の好きが誰の目にもつくものだ。嫌いで押し通せないものだ。
審査員は他人の絵の気合いにかけられるべく並んでいるようなものである。いい絵には気合いがある。大作でも小品でもどんな様式の絵であっても作者の気合いのある絵は強い。
強い気合いを持つ絵はどっしりと置かれてビクとも動かない。もし仮に審査員のうちにあるやましい心から、これを落選させようとたくらむ者があったとしても、それは気合いが許さないであろう。また反対に気合いの抜けた絵を何かの都合から入選させようと一人があせっても、それは駄目なのだ、他の何人かはそんな気合いを認めていないのだから。しかしながら気合いの代りにその都合を認めねばならぬということが万一あったとしたら、それは大事だ、考えても馬鹿らしいことである。要するに、出品者の絵について今年など特に感じたことは、あまりに二科へ出すとか展覧会とか入選とかその結果などばかり考えて描か
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