間と停滞することを許されないので私達はそのまま揉まれつつ押し流されてしまった。
偶然にも平野町へ来ると六の日とみえて、ここも夜店で賑わっていた。平野町は御霊神社をめぐる古来有名な夜店である。新旧二つの夜店が十文字に交叉するということははなはだ面白い現象だった。私はほっとしてこの古い顔の夜店へ吸いよせられてしまった。
ここは道もゆるやかだし、電車も巡査もいない。危険と苦痛がないことは何よりだった。そして第一に屋台の様子がその店の個性を出して思い思いの意匠を凝らしているところは歩行者によき慰めを与えるのである。そして香具師と和本屋と古道具屋と狐まんじゅう、どびん焼、くらま煮屋が昔そのままの顔で並んでいた。私が十幾年以前に初めてガラス絵を買ったのもこの平野町だった。末期的な役者の似顔絵と、人形を抱く娘の像の二つを発見して妙に執着を持った。私は多分一枚五〇銭で買ったと記憶する。それが病みつきでとうとうガラス絵とは妙な仲となってしまった。
私は香具師がする演説に感心してしばらく立ち止まって聴く。大根の皮をむく機械など使う手練の鮮やかさは、ついその役にも立たぬものを買ってみたくさせるだけの才
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