驕B
外国に来ては、絵は一枚もかかずにと思っていたが、さて景色を見ると、とてもとてもがまんがならない程面白い景色があるので、とうとうカンヴァスを張り出したよ。日がセナカからあたって、ボカポカ[#「ボカポカ」はママ]として、絵をかいていてもいい気もちだ。日本では、一月頃には風が吹くから、とても郊外では絵などかけないがね。フランスは風が吹かぬのでいい。
フランス人は絵がすきな人種で、そして油絵はやはり本場だけに、うしろへ立って見ている奴も、中々あいそがいい。今日も、おやじが、お前の絵の色が中々いい、とか、トレジョリー(美しい事)だとか、トレビヤン、トレビヤン(中々いい)などと云って、永い間腰を下ろして見ていた。何か話しかけるんだが、よくわからないので、ウンウンとよいかげんにあしらって、ジャまくさいと、日本語でペラペラ云うてやると、ビックリしよる。そして、ジュヌーコンプランパージャポネーズ(私は日本語がわからん)と云いよる。
此の頃はお正月で、又カルタでもしているのかい。歌はそののち作っているか、いいのが出来たら送れ。
もう然し、来月の末には船にのれるかと思うと、うれしい。此の頃はそのうれしさがあるので、絵をかいていてもはり合いがある。もうこの手紙の返事は、かいてくれてもフランスへ到着する迄に僕がマルセーユを立つ頃になるかもしれないね。
又写真を焼き付けたから送る。カニューの村の近くだ。海岸にはそれは美しい五色の魚船が並んでいる。キレイだよ。トレジョリーだね。
僕のいるカニュー村は、もう、アルプス県に属している処だ。
一月十日
此の頃はこの田舎にも中々落付いていられる様になった。のどかに暮している。初の頃は夕方になると、丁度、垂水に居った時の如く、巴里行きの急行などが走って行くと、すぐ巴里へ帰りたくなって困った。そして、すぐ日本を思い出したりしてな。ここは遠くにアンチーブと云う処の廻旋灯台が見える。その光りを見ても、すぐ淋しくなってしまったのだが、もう馴れてしまった。朝から十五号で Hotel Colonies を近くからかいている。面白く行きそうだ。午後は Cagnes のシャトーをかいている。
もう、四枚絵をかいたよ。日中はこれで絵をかいているので時間を忘れるが、五時に日がくれて、七時にめしだが、この二時間あまりが、全くタイクツでやり切れないのだ。
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