ので、大きなトランクを一つ買入れたよ。
十二月二十五日
いよいよカニューへやって来た。田舎びた美しい、殆ど伊太利に近い海岸である。一寸魚崎辺に似ている。今日はクリスマスの日である。昨夜は田舎の町の活動写真へ入った。今晩は村の人達が夜の十二時から、ここのお寺へ集って祈りをするので遅くまでにぎやかだ。
気候も日本の魚崎辺のぬくさに似ている。
十二月(日不明) カニューにて
此の海岸は、須磨明石垂水と云う様な処である。ぜいたくな処だが、僕のいる田舎はさも田舎らしい処だ。
きのうは、カンヌを見物に出かけた。あすはモンテカルロへ行こうと思う。同じホテルに正宗、中村、榊原君などがいる。あまりカンセイであるので、巴里へ帰り度い気がする。
この近所にカンヌ(Cannes)と云う処と、僕のいるカニュー(Cagnes)と云う処とあるのでややこしい。
十二月(日不明)――P. Sicardy's 写真入カードで――
Cagnes の村に、ただ一つ、活動写真小屋がある。僕のいるホテルの、すぐ裏手だ。帽子も被らずにとび出して、見に出かける。夜の八時半から始まるんだ。写真は、アメリカものが多いのであまり面白くも無いが、村の人が多勢見に来ている、そして接吻の場面になるとキアキアと大騒ぎになる。田舎の人でも、実に日本と違って、行儀がよいので、大変気もちがよい。この写真は余興に出る歌うたいだ、流行歌をピアノに合して歌う。あとで帽子を持って金をあつめに来る。そしてこんなカードをくれる。この村には、風呂屋が一軒も無い。ホテルにも風呂が無いので少し困る。ニース迄汽車にのって行かねばならぬ。
十二月二十九日
朝晩はかなり冷たいので、ストーブにまきをくすべて暖まる。きのう迄、部屋がいけなかったので、少し落付きが悪かったが、いい部屋とかわった。朝日がさし込んでくる、明るいいい部屋である。此の近くのニース及びカンヌは、この辺でのいい町だ。ここへ出れば一寸巴里を小さくした様で何でも必要なものは整う。
自分の部屋から、地中海が見える。五丁程だ。
伊太利の連峰が、左方に雪を被って並んでいる。日本から近ければ、海の家だとか云うて皆遊びに来ればすてきなんだが、遠いのでしかたが無い。
十二月三十一日
今日は、十二月の三十一日だ。カニューは夜の十時だが、日本ではもう元日の朝だろう。丁度今
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