間程して、それから一度帰って、十一月になってから、マルセーユの近くのニースと云う海岸のぬくい処へ行って絵をかく。そして、その間にイタリーを一寸訪問し、出来たらスペインも一寸覗いて、それからもう日本へ帰る事にし度い。英国の郵船会社宛でケビンの注文をした。まだ返事が来ないが、近々に判る事と思う。三月頃の船を注文したから、五月頃には日本へ帰れる事と思う。とてももう外国には永く居る気はしないから、見るものだけ見たら帰る、やはり日本がいいぜ。ナルベクスキナモノを買って帰るよ。
カフェーのイスに、夜腰を下していたら、エカキのナレのハテの様な、面も人のよさそうな青年が来て、ハサミで肖像を切りぬいてやろうと云うて、寄って来たので、可哀そうだったからやらせてやった。林と俺が似ても似つかぬ肖像を頂戴して帰ったのだ。二フラン程くれてやったら、メルシムッシューと云って握手をしたよ。
どうだ、この顔は、恐れ入るね、大変な紳士だね。
[#切り絵の肖像の挿絵(fig3555_04.png)入る]
十一月三日
今、風呂を宿の下女に云いつけて、たてさせて、久しぶりでのんびりとした処だ。丁度バス(風呂)は、俺の部屋の隣りにあるので、皆は洋服のままやって来て、風呂から上ると、すぐ靴をつけねばならぬが、俺はシャツ一枚で、ドアをあけて隣りへとび込める様に出来ているので、バスだけは、至極便利を感じる。部屋はスチームで、ずい分温くいから、風呂へ入っても、あとはシャツ一枚でベッドへころがっていれば、いい心もちにウトウトとなってしまう。まるでベルリン迄湯治にでも来ているかの様な心地さえする。西洋の家は冬向きは実に暖かくていい。これなら、いくら北欧の寒国でも余りつらい事はなさそうだ。外出するのは少し寒いが、大抵自動車かホロ馬車だから楽なもんだ。もうベルリンの町も、まるで京都か大阪位に住み馴れて来た。もうパリもよく勝手がわかったし、ベルリンも京都よりも詳しくなってしまった。
いくら、然し、ベルリンでもマルクが下っていて、ものが安く買えても、自動車に、ただの様な金でのれても、ほしいものが買えても、食い度いものが食えても、ぜいたくのありたけが出来ても、それが一向に、有がたくも感じない。実にハリ合いのない楽しみだ。自分一人でどんな事が出来たって、それは、まことにくだらない、馬鹿気たもんだよ。
十一月九日
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