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おかアさんはもう別府から帰ったかしらん、神経を起さぬ様にせんといかん、ちっとも心配な事はないから。
暑さも、日本より反って涼しい。昨夜も船のデッキで、かぜを引く程にすずしかった。
考えて見ると、別府へ行った日が一番暑かった様に思う。
香港、シンガポール間が暑いそうなが、それから印度洋は又らくだそうな。
身体は毎日御ちそうをたべて、ゴロゴロねたりしているので、めしはうまいし、健康である、安心してほしい。
目方も時々計って見るがあまりへってはいない様だ。
何れ、香港へ到着の上はエハガキを出す事にする。
東京の方へ絵はもう出品したか、東京の磯谷額椽屋の処はわかっているか。
一寸思い出したが、瀧山氏へやる静物は、やはり非売として置いたらどうか。それともたきのやへ、くわしく電話で話しをしてくれるか、どっちなと。
ずい分船にのっている様に思うが、まだ香港だ、船というものはずい分のろいものだ。
印度洋まで行ったら、無線電信を一度打とうと思う。
郵便会社の方から船の発着などの通信が、るす宅へ行くそうなが、行っているか、もし行ってなかったら会社へ電話で聞いて見るがよい。
大分船には馴れて来たので、少々の波やゆれには感じなくなってしもうた。
昨夜は遠方で電光の閃くのを見た、少し夕立もしたが、海は静かだ。
船は支那の沿岸を近く走っているらしい、灯台の光りを時々見る。
三等には、ロシヤ人、支那人、ポルトガルの詩人などがいる、面白い。
用意して来たものの中では、トーチリメンのユカタが一番よく間に合っている。
それから最後に作ったねずみの夏服が実によろしい、毎日あれを着ている、よく作って置いた事だ。
上海で洋服を作るとか何んとか云うが、とてもそんな間なんぞあるもんか。
人の云う事は全くあてにならん。
デッキシューズもよろしかった。
タオルのねまきは、少しやはり暑すぎる。大抵クレープのシャツのままねている。
僕の準備は、大変、然しウマク、支度が出来ていたよ、これは感謝する。
洋食は三度三度だが、一向飽きない、だんだんすきになる。日本めしはライスカレー以外めったに食わぬ。
泰ちゃんも、皆たっしゃか。気をつける様に。
この手紙を三休橋の方へも持って行って見せてくれ。和田の方へも同じくたのむ。
八月二十日
船は明方の六時に出帆した。シンガポ
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