いった具合に変なものが重なり合っていて、それがまたお互いに相当の繁盛もしているというのは、まったく現代には前申した如き、あらゆる御世の心が積み重なり合ってまだ生きているからでもありましょう。私の心の中を覗いただけでもどれだけ不似合のものが合同して、住んでいることでしょう。その代りその不似合のものを私などはやけ糞でことごとくを味わっていますがなかなか多忙であり、同時にまた私はどこの国民だかわからない位の存在の如き有様を自分で感じます。
例えばカツレツで晩めしをたべ、あとはお茶漬けを致しましてラジオを聞きます。新内は明烏です。すぐそのあとで蓄音機です。来た来たショウボートの唄が響き渡ります。今の今、女郎は旧日本の末期的な涙を絞っていまして、私もやるせない心に迷っていましたのに、次の瞬間にはパフパフパフ、シャフシャフシャフといって踊らねばならないのです。多忙なことではありませんか。
これらをせめて多少とも整理して、何とか一筋のまとまった単位を定め掃除し、整理するのは次に生まれてくるところの心から新鮮な赤ん坊達の力に待たなければいけないかと存じます。
そして老いたるものは何か気のすむだけの遺言をのこしてこの世を去って行くことであります。
まず現代は変化の新戦場、火事場、地震の跡であります。由来左様なところに落着きというべき[#「べき」は底本にはなし]ものはありません。優美なる火事場。落着きある地震。沈着なるあわて者というものは珍しい。
過去の諸々の道具類が道端に散乱した。それとともに古い人間も傷ついてころがっています。
その中を日本人は、ことに現代の美人は、勇敢にもまだ下駄を足に引きずりながらむりやりに次の時代に向かって素晴らしい勢いで行進をしている有様であります。
この戦場や工事場、火事場には優美にして柳腰の美人がいたらそれははなはだ似合わないことで、まごまごしていると危険であります。時代の継ぎ目の工事場の美人は、顔の造作さえも気にしてはいられません。
まず第一に元気で強く、健康で軽装であらねばなりません。
しかも目まぐるしい都会の速度と人情の中を泳ぐにはよほど鋭い眼を持ち、同時に敏捷な神経を持つ必要があります。必要に応じて人間の諸道具は、それに適当するように進歩してくるものだと私は聞かされていますし、またその要求通りその反応は現れ、最近に生まれて来る者どもの眼が鋭くなって来ました。もうどんよりとした節穴かガラス玉の如きものは少なくなってまいりました。
先日もある浮世絵の書物で美人の標本として二、三の婦人裸像が描かれてあるのを見ました。そしてそれには、相当丁寧に人体各部の説明が施されてありました。さてその足を見ますと、その長さは胴体の長さよりもよほど短く描かれ、足の関節のところで曲がってくの字を横に二つ並べてありました。さてこの足に衣服を着せますと、いわゆる風流柳腰の姿態というものになります。昔の男達はこの腰に迷ったものでありました。私も新内や浄瑠璃時代に片足をふみ込んで生まれたがためにこの腰つきの妙所を少しく理解致します。
しかしながらこの足は厚い裾に包んであり、常に裾の厚さとともに観賞すべきものでありました。その裾から少量の素足を見せるところに悩ましき美は存在したのでしたが、もう火事と地震の現代女性は尻をからげて走り出しました。
急激に走り出さねばならぬ時代となったから裾の中に、ぬくぬくと収まっていた短い足が急に長く一直線に伸び上がるというに左様に都合よくはまいりません。まずこれだけは暫時、ぽつぽつと進化せねばなりません。といって自分の足が伸びるまで、火事と地震の中でじっと待っていることは出来ません。ここに近代日本の美人は悲劇を持たねばなりません。
短いくの字の足を、捨鉢となって勇敢に露出することに決心した彼女達は勇ましく、レヴューのために足を並べました。私は心斎橋を散歩しながら、あるいは銀座の歩道で、あるいは電車やバスの中で洋装におけるそれらの足に敬意を払います。
時代の混雑せる風景はいかにも嫌だという人達は、この現世の有様を厭うて心を徳川時代におき据え、今なお世の片隅に残っている古物をあさり、古物の女を眺め、その古物の中に自分の心を求めて住むことを楽しんでいます。まったくそれらはすでに出来上がった芸術であり女でありますから、何かと心を乱す雑音がありません。眺めやすく住み心地もよろしいわけであります。私も芸妓、歌舞伎、落語、三味線、柳腰、の世界へ閉じ籠っていたいと思いますが、それでは何か、も一つ、私の心に大きな風穴が開いてしまって、その穴から何ともいい知れないところの幽霊の浜風が吹き込んでまいります。そこで私は我慢してあの短いくの字の足が伸び上がるのを楽しんで待っているのであります。
しかしなが
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