のつぎの晩も、つぎのつぎの晩も、毎晩帰って来た――ためにこの家は恐怖の家となった。
お園の夫の母はそこで檀寺に行き、住職に事の一伍一什を話し、幽霊の件について相談を求めた。その寺は禅寺であって、住職は学識のある老人で、大玄和尚として知られていた人であった。和尚の言うに『それはその箪笥の内か、またはその近くに、何か女の気にかかるものがあるに相違ない』老婦人は答えた――『それでも私共は抽斗を空《から》にいたしましたので、箪笥にはもう何も御座いませんのです』――大玄和尚は言った『宜しい、では、今夜|拙僧《わたし》が御宅へ上り、その部屋で番をいたし、どうしたらいいか考えてみるで御座ろう。どうか、拙僧が呼ばる時の外は、誰れも番を致しておる部屋に、入らぬよう命じておいていただきたい』
日没後、大玄和尚はその家へ行くと、部屋は自分のために用意が出来ていた。和尚は御経を読みながら、そこにただ独り坐っていた。が、子の刻過ぎまでは、何も顕れては来なかった。しかし、その刻限が過ぎると、お園の姿が不意に箪笥の前に、いつとなく輪廓を顕した。その顔は何か気になると云った様子で、両眼をじっと箪笥に据えていた
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