。男子は独立して妻子を養い得ぬのが普通となり、といって婦人の職業進出はますます男子の職を奪い、その労働条件を低下せしめる。これは今日の社会制度を改革しない限りは初めから無理な相談である。子どもの素質は低下せざるを得ない。ここにおいて前回に述べた婦人の社会的関心というものが重要になるのである。一切の婦人は熱心に社会、国家の革新を要請し、そのために協力しなければならないのである。
しばらく社会改革を抜きにして考えるならば、職業と母性愛とをできる限り協定させるよりほかはない。結婚するまでの就職はもとよりいいであろう。それは真面目な社会的訓練と知識とを与える。しかし結婚とともに職をやめて夫の収入に依頼し得る境遇はますます減じつつある。強いてやっていけるにしても、それよりも就職して収入を増し、家庭の窮迫を救いたくなるであろう。そしてそのことはまた家庭の団欒と母性愛を損じる。
職業か結婚かの問題は普通の婦人の場合結婚せずして幸福であり得るはずはない。結婚生活の窮乏に堪え得られないなら、共稼ぎして、母性愛と育児とをある程度まで犠牲にしても結婚すべきである。オールドミスの職業婦人は特別な天才や、宗教的、事業的献身の場合のほかは見るも淋しく、惨めである。窮乏せる結婚生活が恋愛の墓場であるにしても、オールドミスの孤独地獄よりはなおまさっている。ヒステリーに陥らずに、瘠我慢の朗らかさを保ち得るものが幾人あろう。
[#地から2字上げ](一九三五・三・二)
底本:「青春をいかに生きるか」角川文庫、角川書店
1953(昭和28)年9月30日初版発行
1967(昭和42)年6月30日43版発行
1981(昭和56)年7月30日改版25版発行
入力:ゆうき
校正:noriko saito
2005年1月6日作成
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