仕事をし、愛を実行するほかはないのですね。またそれが最もいいことなのですね。
あなたの勧めて下さるように私は「若き罪」に力を注ごうと思います。私は今ユーゲントと別れを告げようとしています。そのはなむけにこの作をかきます。私は実に愛すべきしかし間違いの多い青年期を過ごしました。私は涙をもって、そして愛のねぎらいをもって、私の青年期を葬ります。私は「若い罪」には熱い熱い愛を感じて書くことができます。また後悔の苦しみをもって、しかし、それは、その償いとして私の後の生涯が展《ひら》かれています。私の今持っている多くの尊きものは、ほとんどみな私の青年期の私に与えた贈り物ばかりです。
私はあなたが私の「若き罪」に期待して下さることを実に感謝します。私は今から毎日毎日この作に力をそそぎます。そしてまったく文壇的成心をはなれて、純粋な愛で、私のユーゲントを葬るためにのみかきます。たぶんそこには、私のユーゲントも、他の人々のと同じような、珍しからぬ材料、恋が中心になるでしょう。しかしそのようなことは顧慮せずに私のユーゲントを描きます。あなたが、その一部分を知っていて下さるところの私の青年期には、それはそれはずいぶん愛すべき、また愚かなところが数知れずあります。それを私は今まであなたに語ったことはありませんが、この作であなたに語ることになります。千ページぐらいの予定で、四月末までには完成するつもりです。
私は景色の描き方がへたなので、小説はむずかしいと思ってドラマの形を選んだのです。受難者のようなふうにかくのなら、私にでも小説は描けそうです。あなたや、謙さんのを読んで、とても景色などあんなには描けないと思って、気がひけているのです。しかし私はまったく私の流に描きましょう。人々でその形は変わるのが本当ですから。
謙さんや内山君も卒業したら、作をするようになるでしょうし、あなたのはだんだん発表されてゆくし、あなたのおっしゃるように、私たちの仕事はいきいきとしてきますね。
今年はみなの上に実りの豊かな年であってくれよかしと祈りたくなります。あなたのレーウィンのエゴイスムスというのを読みたく思います。いつか「人生論の倫理学」を創り上げなさることを希望します。実に大きな仕事です。おそらく大分後になることと思いますが。
仕事は多くして時間は短いという気がします。ことに私は健康のことを思うては、あせります。弓矢取るもののふに比べれば、ペンを執るものの文運を神々に祈りたくなります。
江馬さんが、私のを読んでくれたのと、佐藤氏に話してくれたのについて私がありがたがっているとおっしゃって下さい。私もいつか、江馬さんと親しくなるだろうと思っています。あなたの手紙にしばしば出る奥さんもいい人のようですね。
まだ書きたいことはたくさんありますが、夜がふけますから、またこの次に残します。今夜は霜をあざむくようないい月夜で、海をへだてて島山が凍るように冷たくかたまって黒く見えます。私はひとりで外套を着て海べを歩きました。乾草の堆や小舎《こや》などある畑の側の広場に立って、淋しい月あかりの海を見て立ちました。舟がかりをしている漁師の船窓にはあかりがこもっていました。この寒く透き通る空は脅かすような威厳の感じを持っていますね。長く見てはいられなくなります。さようなら。[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 一月七日)
病重くなり、常臥時代始まる
私はまた不幸に襲われました。私は病気にかかって入院しました。私はあなたに長い長いお手紙をあげたいのですが、熱があってどうしても根気がありません。どうぞもっとよくなるまでゆるして下さい。私は読むことと書くこととを禁じられているのですから。何もかもこらえるほかはありません。
あなたもからだを大切にして勉強して下さい。私はあなたがたを悲しく、なつかしく思います。なにとぞ熱が下ってくれればいいがと祈っています。世界が暗く暗く心に映ります。新年とともに幸福を待ったのはそらだのみでした。どうぞ大切にして下さい。あなたはからだは丈夫でも、他に魂の不幸を負わされていらっしゃる。私はそれを忘れたことはありません。何といいましょう。忍べということもいい古しました。祈りに倦みそうな誘惑さえ感じられます。でも祈るよりほかに術《すべ》はありませんね。もっとよくなったら手紙をかきます。今はかなしみに打ちかたれています。
広島市木挽町中村病院に入院しました。昨日の夕方に。[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 中村病院より)
久保正夫氏宛
あなたはさぞ私のことを心配して、私の手紙を待っていて下さることと思います。私も手紙がかきたいのですが、この五日ほどすこしですけれども血が出たあとの安静を命じられているのと、根気がないのとでほんの容
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