れは同じ日にこの孤島《ことう》に流された。同じ船で。それゆえに同じ日に、同じ船でこの島を去らねばならない。われわれはいかほどの困苦《こんく》をともにしてきたことか。われわれの間に不和が生じたとすれば、それは、われわれの受けている運命の苛責《かしゃく》があまりに厳《きび》しかったからだ。
俊寛 (成経を抱《だ》く)わしはあなたのひろい心がありがたい。わしはあなたにとって確かに平和な、親切な友ではなかった。わしの気質は荒くて、ゆがんでいるから。もっとも平和な時でさえも、わしはあまり陰気だったから。あなたがたには、長い歳月《としつき》の間さぞわしが堪《た》え難《がた》い重荷《おもに》だったろう。でもわしをきらってくださるな。わしはあまりにさびしい。(沖《おき》を見る)あゝ、あの船を見るとわしは変にさびしくなる。初めてあの帆影《ほかげ》を見た時暗い陰《かげ》がわしの心をおおうてきた。あの船には何かわしを不幸にするものが乗っているような気がする。「死」が乗っているような気さえする。わしは今|本能的《ほんのうてき》に助け手を求める。忠実な友がそばにいてくれることが、今のわしには絶対的に必要だ。
康頼 わしはあなたの最後までの助け手だ。死に到るまでかわらぬ忠実なる友だ。
俊寛 あゝ、あなたは心強いことを言ってくださる。(康頼の顔を見る)どうしてあなたがたのかほどの強い励《はげ》ましが、わしの不安を払いのけてくれぬのだろう。
康頼 わしはあなたをあわれむ。あなたはきょうはどうかしていられる。あまり異常な幸福が近づいたために、心がその喜びをにないきれなくなって、平衡《へいこう》を失ってしまったのではないか。
俊寛 ほんとうに、ほんとうにわしを見捨てませんか。
康頼 わしの目をごらんなさい。あゝ、あなたは泣いていますね。どうしたと言うのだろう。
俊寛 (康頼の足もとに崩《くず》れて泣く)
成経 あなたはあまりに衰《おとろ》えました。風雨が樹木《じゅもく》を打つように、長い間の不幸があなたを打ったのだ。あなたはあわれな老人のごとく、幸福なときにも泣くことしかできないのだ。あなたの姿《すがた》はあまりにも痛ましい。わしは思いださずにはいられない。われわれが昔あの鹿《しし》が谷のあなたの山荘に密会したころのことを。あのころのあなたのあの鉄のような意志と、鷲《わし》のような覇気《はき》とを。わ
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