こまでもお伴いたしますぞ。(俊寛の死骸を負う)あゝ仏様。私はこの世をいといまする。この恐ろしい世界から一時も早くのがれとうございます。私は主人とともに死にまする。私は何もわかりません。私の今することがたとえ間違っていようとも、なにとぞゆるしてくださいませ。あゝ主人の来世をお救《すく》いくださいませ。主人の霊を地獄《じごく》より救い出してとこしえの平和を恵みたまえ。(死に場所を選びつつ)今私の霊をあなたの御手《みて》に託《たく》しまする。(俊寛の死骸を負いたるまま岩の上より海に身を投げる)
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あらしの音。波の音。月光ほしいままに浜辺《はまべ》を照らす。
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[#地から3字上げ]――幕――



底本:「出家とその弟子 他一編」旺文社文庫、旺文社
   1965(昭和40)年12月10日初版発行
   1974(昭和49)年第25刷発行
初出:「新小説」
   1919(大正8)年12月
入力:藤原隆行
校正:川山隆
2006年9月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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