二十五歳
   僧三人
   同行衆《どうぎょうしゅう》 六人
   内儀
   女中
   丁稚《でっち》 二人         十二、三歳
時  第一幕より十五年後
   秋の午後

僧三人語りいる。
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僧一 まだお勤めまでにはしばらく暇がありますね。
僧二 おっつけ始まりましょう。もう本堂は参詣人でいっぱいでございます。
僧三 今さらながら当流の御繁盛はたいしたものでございますね。
僧一 本堂にははいり切れないで廊下にこぼれている者もたくさんございます。なにしろきょうはあれほど帰依《きえ》の厚かった法然聖人《ほうねんしょうにん》様の御法会《ごほうえ》でございますもの。
僧二 そのはずでもありましょうよ。御存命中は黒谷《くろだに》の生き仏様とあがめられていらっしゃいましたからね。土佐《とさ》へ御流罪《ごるざい》の時などは、七条から鳥羽《とば》までお輿《こし》の通るお道筋には、老若男女《ろうにゃくなんにょ》が垣《かき》をつくって皆泣いてお見送りいたしたほどでございました。
僧三 私はあの時鳥羽の南門までお供をいたしました。それからは川舟でした。長くなった白髪《しらが》に梨打烏帽子《なしうちえぼし》をかぶり、水色の直垂《ひたたれ》を召した聖人様がお輿から出て、舟にお乗りなされた時のおいとしいお姿は、まだ私の目の前にあるようでございます。
僧一 もうおかくれあそばしてから二十三年になりますかね。月日のたつのは早いものですね。私たちの年寄ったのも無理はありませんな。
僧二 法然聖人様と申し、お師匠様と申し、ずいぶん御難儀なされたものでございますね。きょうの御繁盛もそのおかげでございますね。
僧三 浄土門今日の御威勢を法然様が御覧なされたら、さぞお満足あそばすでしょうにね。
僧二 お師匠様もだいぶお年を召しましたね。
僧一 今度の御不例は大事ありますまいか。
僧二 いいえ、ほんのお風を召したばかりでございます。
僧三 御老体ゆえお大切になされなくてはなりません。
僧一 唯円殿がだいじにお仕えなさるゆえ安心でございます。
僧二 唯円殿はお若いのによく万事気がつきますからね。
僧三 ああしておとなしい気の優しい人ですからね。
僧一 お師匠様はまた唯円殿をことのほかお寵愛《ちょうあい》なさいますよう
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