ものですか。あんな所に立っていたら凍え死にしてしまいますわ。
左衛門 でも気になるから、見て来てくれ。
お兼 見て来るには来ますけれどね。(手燭《てしょく》をともし、庭におり、戸をあけて外を透かして見る)あら(叫ぶ。外に一度飛んで出る。それからまた内にはいる)左衛門殿。早く来てください。来てください。(外に飛び出る)
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左衛門、緊張した、まっさおな顔をして外に飛び出る。松若母の声に目をさまし、父のあとからついて出る。三人の僧驚いて目をさまし、身を起こす。
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お兼 まあ、あなたがたはまだここにいらしたのですか。この雪の降るのに、この夜中に。まあ、どうだろう。冷たかったでしょう。凍えつくようだったでしょう。
左衛門 (親鸞に)私は……私は……(泣く)許してください。(雪の上にひざまずく)
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親鸞、感動する。少しおどおどする。それから黙って左衛門の肩をさする。
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お兼 根はいい人なのですからね。根はいい人なのですからね。
慈円 (涙ぐむ。小声にて)南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》南無阿弥陀仏。
良寛 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。
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異様な緊張した感動一同を支配す。少時沈黙。
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お兼 どうぞ皆様内にはいってください。炉にあたってください。冷たかったでしょう。この夜中に。薄い衣きりで。ほんとにどうぞはいってください。(親鸞の衣より雪を払う)こんなに雪がたくさんかかって。(内にはいる)
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左衛門続いてはいる。親鸞、慈円、良寛、沈黙して内にはいり、雪を戸口で衣より払い庭に立つ。
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左衛門 (座敷に上がる)どうぞ上がってください。お兼たき木をたくさんついでくれ。
お兼 (たき木をつぎつつ)どうぞ上がってください。炉のそばで衣をかわかしてください。
親鸞 (弟子に)ではあげてもらいましょう。(草鞋《わらじ》を脱いで座敷に上がり炉のそばに寄る。慈円、良寛それにならう)
左衛門 宵《よい》には私はひどい仕打ちをいたしました。酒を飲
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