Pに便利なものとはいえない、真理は経験的事実に基づいたものであることを主張しその論文の末段に、
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ポアンカレは単に有用なるものは真理であるとか、思惟《しゐ》の経済といふやうなことで満足し得るプラグマチストたるにはあまりに鋭き頭を持つてゐた。氏は何物も自己の主観的独断を加へない。種々の科学的知識を解剖台上に持来《もちきた》つて、明らかに物そのものを解剖して見せたのである。(芸文――十月号)
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と評しているのを見ても氏がみずからをプラグマチズムに対して持する態度を知るにはあまりあるであろう。プラグマチズムは敬虔にして、情趣|濃《こま》やかなる人々の歩むにはあまりに平浅な道である。西田氏がプラグマチズムに発しながら、プラグマチズムに終わらなかったのは、その原因を氏の個性の上に帰せねばなるまい。氏はもののあわれを知るロマンチストである。その歩む道には青草と泉とがなければならなかった。蒼い空を仰いでは群星の統一に打たれ、淋しい深い北国の海を眺めて、無量の哀調を聞くことを忘れざる西田氏は、ベルグソンの神秘とヘーゲルの深遠とを慕うて、その哲学体系
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