ニ、私の身分との社会上の相違を気にかけていでもするかのように、あなたはあのようなことをおっしゃるのはどうしたものでしょう。
私が一度でもそのような気持ちの影をでもあらわしたことがありますか? 私はあなたがお米を磨《と》いだり、着物を洗濯《せんたく》したりなさるのをまことにかいがいしく美しく感じています。そのようなことを気にかけてはいけません。私は働くことと愛することとを結びつけて考えます。純な、健康な、よく働く愛らしいお絹さん。あなたはまことに純潔で美しいです。複雑な荒《すさ》んだ人々の間にばかりくらしてきた私にはあなたが神の使のようにさえ見えます。あなたはそのままで清らかで完全です。もしこの世が天国のようなところなら、あなたは栄えを受くべきです。けれどもこの世では、あなたは蛇《へび》のごとき慧《さ》かしさのかけているために、私にはあぶなっかしく見えます。そしてそれゆえに私はますますあなたを傷つけてはなりません。あなたから初めてあのような手紙をもらったとき、私は心の奥に強い誘惑を感じました。(あなたは恐ろしいとは思いませんか。すべての男にはそのようなところがあるのです)。あなたを傷つ
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