рフ思想はこの痛切なる願望を裏切らずにはおかなかった。私は泣く泣くも友の存在を影のごとく淡きものになさなければならなかった。二人の間に実在的な交渉を否認してただ関係的《エコノミカル》な交渉にしてしまわなければならなかった。これはじつに私には痛刻きわまりなき悲哀であり、苦痛であり、寂寞であり、涕涙《ているい》であった。私は苦しみ悶えた。私はその友に与えた手紙の一節を記憶している。
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わが友よ。御身と私との間には今や無辺際の空より垂れ下りたる薄き灰色の膜がある。私らはこの膜をへだてて互いの苦しげなる溜息を微かに聞く。また涙に曇る瞳と瞳とを見かわしながら、しかも相抱擁することができない。どうしてもできない。ああわれらはどうすればいいのだろう。
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けれどもその頃の私のインテレクチュアルな生き方ではとうてい友を捨てるほかはなかった。私は骨の抜けた、たましいのない空殻のような交渉を二人の間に残すに忍びなかったからである。
そのときの友の態度の誠実なのに私は敬服した。その心根のやさしさに私は涙ぐんだ。
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君は私と離れる
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