た旧家の納谷家から、三種の悪質《わる》い伝統の遺物が取り去られたのであった。
雄之進は永久納谷家へは帰らなかったそうな。しかし伝うるところによれば、この人の病気は、天刑病《てんけいびょう》ではなく、やや悪質の脱疽に過ぎなかったということであり、そうしてこの人は、やはり、別木荘左衛門一味の同伴者《シンパ》であり、お篠を娶ったのも、お篠が、別木党の、梶内蔵丞の娘であることを知っていたからだということである。そういう烈士であったればこそ、家のため妻のために、自分の生涯を犠牲にして、行衛不明になるというような、男らしい行為を執ったのであろう。お篠は勿論後半生を未亡人として送った。
そうしてお篠は、死ぬ迄、「いいえ、あの時、妾の名を、『お篠オーッ』と呼んで下されたのは、蔵の中の菊弥ではなくて、良人、雄之進様でございますとも」と云い張ったということである。
底本:「国枝史郎伝奇全集 巻六」未知谷
1993(平成5)年9月30日初版発行
初出:「冨士」特別増大号
1937(昭和12)年9月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:阿和泉拓
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年9月10日作成
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