でいた。
 そこには次のように書いてあった。
「……茴香には三種の区別あり、野茴香、大茴香、小茴香、しかして茴香の薬用部は、枝葉に非ずして果実なり。大きさおよそ二分ばかり、緑褐色長円形をなす。一種強烈なる芳香を有し、駆虫《くちゅう》、※[#「ころもへん+去」、第3水準1−91−73]痰《きょたん》、健胃剤となる。また芳香を有するがため、嬌臭《きょうしゅう》及び嬌味薬となる、あるいは種子を酒に浸し、飲用すれば疝気《せんき》に効あり。茴香精、茴香油、茴香水を採録す」
 北山はここで舌打ちをした。
「どうもこれでは仕方がない。だがしかし例の白粉が、茴香剤に相違ないと、前田一学から知らせて来たからには、それに相違はあるまいが、しかしどうも疑わしいな」
 腕を組んで考え込んだ。
 気がムシャクシャしてならなかった。
 で、宿を出て歩くことにした。
 他に行くところもなかったので、浅草の方へ足を向けた。
 観音堂へ参詣《さんけい》した。
 相当夜が深かったので、他に参詣の人もなかった。

         七

 観音堂の裏手の丘に、十数人の男女がいた。寝そべっているもの、坐っているもの、立ってい
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