た」
「死んだのではありますまいね」葉之助は不安そうに訊ねた。
「死んだのではない気絶したのだ。ところで不思議にも気絶から醒《さ》めると、弓之進殿をじっと見て、『お父様!』と叫んだものだ。そうしてまたも気絶した。またその気絶から醒めた時には、子供は過去を忘れていた」
「不思議なことでございますな」
「不思議と云えば不思議だが、そうでないと云えばそうでないとも云える。西洋医学ではこの状態を精神転換と云っている。すなわち過去をすっかり忘れ、気絶から醒めたその時から新規に生活《くらし》が始まるのだ。……それと見て取った弓之進殿は、こう私《わし》に云われたものだ。『これこそ葉之助が予言した、代りに来る者でございましょう、その証拠には私を見ると、お父様と云いました。で私はこの子を養い養子とすることに致しましょう』そこで私はこう云った。『それは結構なお考えです。しかしこのまますぐに引き取り養い育てるということは、鏡家のためにもこの子のためにも将来非常に不幸です。素姓も知れない山の子とあっては殿の思惑《おもわく》もいかがあろうか、これはいっそ知人に預け、その知人の子供として貰い受けるのがよろしかろう
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