げいし》は残っていた。
その一つへ腰を下ろし、瞑想《めいそう》に耽《ふけ》ったものである。
秋の日射しの美しい、小鳥の声の遠く響く、稀《まれ》に見るような晴れた日で、枯草の香などが匂って来た。
「静かだなあ」と私は云った。
不幸な恋をした山吹のことが、しきり[#「しきり」に傍点]に想われてならなかった。
多四郎の不純な恋に対する、憤りのようなものが湧いて来た。
「浮世の俗流というものは全くもって始末が悪い。天狗の甲冑を盗むばかりか、乙女の心臓をさえ盗むんだからなあ」などと感慨に耽ったりした。
[#地付き](完)
底本:「八ヶ嶽の魔神」大衆文学館、講談社
1996(平成8)年4月20日第1刷発行
底本の親本:「八ヶ嶽の魔神」国枝史郎伝奇文庫、講談社
1976(昭和51)年4月12日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:六郷梧三郎
2008年8月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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