ポン竹刀の音がすればつい覗きたくもなりますからな。外からでは充分見えません。内へはいってゆっくりと」
「それにこれまで駈け違いしみじみ御意《ぎょい》を得ませんでした。今日はめったに逃がすことではない」
「おい近藤何を云うんだ」白井というのが注意する。
「何はともあれおはいりくだされ」
「倉平、どうしたものだろうな?」
「若旦那、お帰りなさいませ」事態|剣呑《けんのん》と思ったので主人を連れて帰ろうとする。
 そこへまたもや二、三人若侍どもが現われた。
「葉之助殿ではござらぬか。これはこれは珍客珍客! 近藤、白井、何をしている。早く葉之助殿をご案内せい」
「何んとでござる葉之助殿、おはいりくだされおはいりくだされ」
「せっかくのお勧め拝見しましょう」
「しめた!」「おい!」「ハハハ」
 そこで葉之助はノッソリと道場の内へはいって行く。
「おい、はいって行くぜはいって行くぜ」
「可哀そうに殴られるともしらず」「知らぬが仏という奴だな」「それにしても大きいなあ」「十二とは思われない」「十九、二十、二十一、二には見える」「随分力もありそうだぞ」「あの力でみっちり[#「みっちり」に傍点]殴られたら」「そりゃ随分に痛かろうさ」
 そろそろ怖気《おぞけ》を揮《ふる》う奴もある。
 葉之助の姿がノッソリと道場の中へ現われると、集まっていた門弟どもまたひとしきり噂をした。よせばよいのに気の毒な――こう思う者も多かったが大勢《たいせい》いかんともしがたいので苦い顔をして控えている。
「こちらへこちらへ」と云いながら、白井というのが案内した席は皮肉千万にも正座《しょうざ》であった。すなわち稽古台の横手である。
「これはご師範でござりますか」葉之助は初々《ういうい》しく恭《うやうや》しく石渡三蔵へ一礼し、「私、鏡葉之助、お見知り置かれくだされますよう。また本日はお稽古中お邪魔《じゃま》にあがりましてござります」
「おお鏡のご養子でござるか」
 煙草《たばこ》の煙りを口からフワリ……これが三蔵の挨拶《あいさつ》である。さすが代稽古をするだけに腕前は勝《すぐ》れてはいたものの、その腕前を鼻にかけ、且《か》つ旋毛《つむじ》の曲がった男、こんな挨拶もするのであった。
 あちこちでクスクス笑う声がする。

         四

 しかし葉之助は気にも掛けず端然と坐って膝に手を置いた。それからジロリ
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