う存じます」]」斯う云って平伏したのです。
すると、四郎は其瞬間から、自分を天より遣わされたる天使であると思い込みました。
「おお其方は森宗意軒か」言葉迄も全然変り「私は宗旨を拡めるため天から遣わされた童児であるぞ」
「尊い尊い天の童児様! 尊い尊い天の童児様!」
「見ろ、私は義軍を起こし、キリストとマリアとを守るであろう!」
「ハライソ、ハライソ、ハライソ、ハライソ!」宗意軒は斯う云って十字を切りました。
「……われは命のパンなり。われに来たる者は飢えず。我を信ずる者はいつまでも渇くことなからん。……」突然四郎は立ち上がり斯う威厳を以て叫びましたが、是は聖書の文句なのです。しかし四郎は白痴でした。曾て其様な聖書などを読んだことなどは無い筈です。
と、四郎は手を上げて、
「月よ、血の如く赤くなれよ! そのキリストの血に依って!」こう大声で呼びました。忽然、今まで澄んでいた橙色の春の月が、血色に変ったではありませんか。第一の奇蹟の成功です。
「ハライソ、ハライソ、ハライソ、ハライソ!」
と、其間も森宗意軒は讃美の声を絶とうとはせず、繰返えし繰返えし唱えるのでした。
それは誠に神秘
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