辷るように歩く足音がした。
「殿、何者か、私達の話を、立ち聞きしたようでございます」
 吉田三五郎は不安そうに云った。
「うむ」
 と云ったが越前守は、気に掛けない様子であった。

     一八

「旦那、大変でございますよ」
 番頭の顔は蒼褪めていた。
「何んだい番頭さん大仰な」主人の仁右衛門は怪訝そうに訊いた。
「旦那、何んだじゃありませんよ。三人の江戸のお客様、大変な人達でございますよ」
「それじゃあ何かい兇状持かい?」
「飛んでもないことで、大岡様ですよ」此処で番頭は呼吸を継いだ。「大岡越前守様のご一行で」
 そこで番頭は立聞をした、三人の話を物語った。
 主人の仁右衛門は腕を組んだ。
「これはうっちゃって[#「うっちゃって」に傍点]は置けないね。町役人迄届けて置こう」
「それが宜敷うございます」
 そこで仁右衛門は家を出た。
 仁右衛門の話を耳にすると、町役人は仰天した。
 そこで上役に言上した。上役から奉行へ伝言した。奉行から家老へ伝言した。
 成瀬隼人正、竹腰山城守、石河佐渡守、志水甲斐守、渡辺飛騨守の年寄衆は、額を集めて相談した。
「これは何うも大事件だ。江戸の
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